福井 智也 D3
(A02班 竹内G)
数理物質科学研究科物質・
材料工学専攻
Tomoya Fukui, Shinnosuke Kawai, Satoko Fujinuma, Yoshitaka Matsushita, Takeshi Yasuda, Tsuneaki Sakurai, Shu Seki, Masayuki Takeuchi, Kazunori Sugiyasu,
Nature Chemistry, in press.
DOI: 10.1038/nchem.2684
私たちのグループでは、ポルフィリン誘導体の集合体形成過程に、ナノ粒子からナノファイバーへ形態転移する時間発展現象を報告しています。実は、分化する超分子集合体は全くの偶然に発見されました。当初、別の目的のために、ある誘導体の自己集合挙動を調べていました。すると、ナノファイバーは全く形成されず、ナノシートが形成されたのです。予想外のことに驚き、すぐさまメカニズムの解明に取り掛かりました。その過程で、数種類の誘導体の自己集合挙動を調べました。その中に、ナノシートとナノファイバーの両方を形成できる「分化」する超分子集合体を見つけたのです。予期しなかった偶然から全てが始まり、今回の発見に至りました。
超分子集合体の分化現象のメカニズム解明と2次元リビング超分子重合の証明が大変でした。実験ノートを見返してみますと、最初にナノシートを見つけてから数週間のうちに、超分子集合体が分化する現象を発見しています。ただ、ここまで複雑な超分子集合体の形態転移現象は前例がなく、熱力学や速度論に基づく定量的な理解にたどり着くまで1年以上かかりました。最終的に、分化現象の熱力学的な理解や2次元リビング超分子重合の速度論的解析は、理論化学をご専門とされる河合先生(静岡大)との共同研究によって達成することができました。この経験は非常に刺激的で、物事を様々な角度で考えることがいかに大切かを学びました。
ここ最近、速度論的に形成される超分子ポリマーの研究が注目を集めています。本研究では、超分子集合体の分化現象のメカニズムを解明し、それを応用することで1次元と2次元のリビング超分子重合に成功しました。1次元だけでなく2次元の超分子集合体の精密制御も可能であることが示され、この分野はますます盛り上がることと思います。今後は、リビング超分子重合を駆使して、より複雑なナノ構造体の構築にチャレンジしたいと思っています。
常識に囚われず、新たな分野を開拓する研究者になりたいです。白川英樹先生の導電性高分子の発見も、常識的ではない実験が全ての始まりでした。常識に囚われず、様々な切り口で物事を考えるためにも、たくさんの人との交流を大切にしたいです。そういえば、グループメンバーから、君はいつも楽しそうだねとかYou look so happyと言われます。サイエンスが好きで好きで仕方がないので、その気持ちが日々溢れ出ているのだと思います。科学を心の底から楽しむこと、たくさんの人と交流すること、何々とはこういうものであると固定観念に囚われないこと、これらを大切にして研究していけるよう努力します。
Franco King-Chi Leung D3
(A02班 福島G)
総合理工学研究科
物質電子化学専攻
Franco King-Chi Leung, Fumitaka Ishiwari, Takashi Kajitani, Yoshiaki Shoji, Takaaki Hikima, Masaki Takata, Akinori Saeki, Shu Seki, Yoichi M. A. Yamada, Takanori Fukushima,
J. Am. Chem. Soc. 2016, 138,11727.
DOI: 10.1021/jacs.6b05513
In previous work, the remarkable self-assembling properties of paraffinic triptycenes lead to the spontaneous formation of thin films with a completely oriented “2D + 1D” structure”. As inspired, by linking of functional molecular units to triptycene, the precise control of the arrangement and orientation of the constituent molecules over a large area is fulfilled. To explore the full potential of triptycene assembling ability, the isotropic and sterically bulky C60 (van der Waals diameter of C60 is almost identical to cross-sectional area of triptycene) was chosen and linked covalently to triptycene. Consequently, this highly oriented and ordered 2D assembly structure of C60 exhibited anisotropic conducting properties. By considering that triptycene-based supramolecular scaffolds are capable of directing functional molecular units to assemble into a highly oriented anisotropic 2D structure, the present approach may contribute for tailoring the high-performance organic thin films with anisotropic functionalities.
For most of the researches, the multi-challenging tasks are involved. There is no exception in this work too. In the primary state, we designed molecularly triptycene as supramolecular scaffold for various organic functionalities. Eventually, after a careful design and investigation of the synthetic methodology, we decided a multi-step (more than ten steps) synthesis of the target molecules. Some challenging selective functionalization, multi-gram scale synthesis, and purification problem encountered, from my point of view, the selective functionalization of 1,8,10,13-tetrasubstituted triptycene is not only the toughest process but also the most beautiful portion of this work. Nonetheless, this optimized molecular design has offered us a surprising journey throughout this research. In the evaluation processes of the morphologies and assembling structure of the triptycene-based organic thin films, the high-resolution atomic force microscopy, synchrotron X-ray diffraction, and grazing-incidence X-ray diffraction were employed, which offered me an invaluable opportunity for studying material science extensively through these cutting-edge analytical methodologies.
I would like to say, “Change is unavoidable in our life”, same to my research journey. In the beginning of my research life, I was trained to be an organic chemist to handle the challenging tasks in methodology developments for advanced organic catalysis and synthetic chemistry. In pursuing of the synthetic methodologies, I realized the importance and beauty of the organic molecule design for endowing the ultimate functions of organic materials. In 2011, Prof. Fukushima has been awarded the ACP Lectureship Award and invited to give lectures in Hong Kong. Luckily, after attending a series of the amazing seminal lectures given by Prof. Fukushima, I was impacted by his outstanding researches for expanding my horizon of scientific research. To my greatest honor, hence, I decided to pursue my next stage of research journey in Japan.
In the foreseeable future I want to be a researcher, who can identify and solve the sophisticated interdisciplinary researches to address the most challenging environmental issues, for example, energy crisis and global warming. By this opportunity, I would like to express my sincere appreciation to Prof. Fukushima for accepting me as his Ph.D. student to do such an exciting research.
櫛田 創 D1
(A02班 山本G)
物性・分子工学専攻
Soh Kushida, Daniel Braam, Thang Duy Dao, Hitoshi Saito, Kosuke Shibasaki, Satoshi Ishii, Tadaaki Nagao, Akinori Saeki, Junpei Kuwabara, Takaki Kanbara, Masashi Kijima, Axel Lorke, Yohei Yamamoto,
ACS nano. 2016, in press.
DOI: 10.1021/acsnano.6b02100
私たちは、共役ポリマーが自己組織化により形状の整った球体を形成することを、これまでの研究で見出していました。マイクロサイズの球体は内部に光を閉じ込め、Whispering Gallery Mode (WGM)という共振発光を示します。今回の研究は、複数の共役ポリマーを混合しても1つの球体が形成できるのではないかという単純な興味からスタートしました。実際に形成した構造体を蛍光顕微鏡で観察してみると、全てアクセプター側の発光色を示す球体ができていて興奮したのを今でも覚えています。後で分かったのですが、分子同士の析出するタイミングをうまく揃えなければ相分離してしまうということで、たまたま最初に試みた組合せがよかったのは幸運でした。また、蛍光量子収率や発光スペクトルなどから、アクセプター分子がドナー分子中でうまく孤立しているために100%近いエネルギー移動を実現していることが分かりました。
球体1粒子からの発光スペクトルを測定している時に、たまたま接触した2つの球体を見つけました。その一方を励起してみると、他方からも発光している様子が観察されました。これは球体の接点が共振器の欠陥となり、その点を介して球体間で効率的に光が伝搬するためです。この様子を観察していて、天然の光合成の光捕集系と似ているなと感じました。スケールやメカニズムは全く異なりますが、クロロフィル中で励起エネルギーが周回し、反応中心まで光エネルギーを運ぶさまと類似していると思ったのです。そこで、我々の共役ポリマー共振器を用いて光を効率よく集め、伝搬し、波長変換するシステムを構築できないかと着想しました。マイクロ共振器を2−5つ連結することで、10マイクロメートル以上の長距離に及び発光を伝搬できることを示し、さらにエネルギードナー性・アクセプター性のポリマー共振器を連結させることで、WGM発光の波長変換を実証しました。
後半の球体間エネルギー移動の評価方法が非常に難しかった点、また、励起光が直接伝搬してこのような現象が起こっている訳ではないことの証明が非常に難しかったです。また、学会で光学の分野の先生に「物理的には全く面白くない」とバッサリ切られたことを、今でも鮮明に覚えています(笑)。論文投稿でも、レビュアーから多くの厳しい指摘を受け、受理されるまでにかなり時間がかかりました。しかし、ドイツの共同研究者らの協力で、励起位置と異なる位置の発光スペクトルを計測することができ、最終的には納得できる研究結果を示すことができたと思います。
今後は、光捕集によって得られる機能の探索に向けて研究を進めていきたいと思っています。例えば、エネルギードナー性共振器が吸収した広範囲の光をエネルギーアクセプター共振器に集めることで、低閾値レーザー発振が実現できないか、などを考えています。
自分に期待を持ち続けて、何歳になっても童心を忘れないStay Youngな研究者になりたいです!
山内 光陽 D3
(A02班 矢貝G)
共生応用化学専攻
Mitsuaki Yamauchi, Tomonori Ohba, Takashi Karatsu, Shiki Yagai,
Nature Communications. 2015, 6, 8936,
DOI: 10.1038/ncomms9936
我々は「分子がどのように集合していくか?」という集合プロセスに興味をもっており、光応答性分子を利用すれば光でプロセスを制御できるのではないか、という単純な思想から本研究がスタートしました。新規にデザインしたスチルベン分子は、有機溶媒中で自己集合し右巻き螺旋ファイバーを形成し、この螺旋に紫外光を照射すると、DNA光損傷と類似した[2+2]光環化反応が起こりました。さらに、この光生成物と無傷の分子を加熱・冷却処理によって共集合させると、螺旋反転した左巻き螺旋ファイバーを形成しました。このような螺旋反転が起こるとは全く予想していなかったため非常に驚き、それと同時に再現を急いで確認したのを今でも覚えています。
測定案を考える度に日々測定をこなしてきましたが、もともとデータ集めは好きでしたので、苦労よりは充実感の方が勝っていた気がします。工夫した点は、螺旋の巻方向が反転した最終的な結果より「どのように反転したのか?」という集合プロセスを温度可変円二色性スペクトル測定や原子間力顕微鏡観察により注意深く調べたことです。これらの解析により、反転前後の螺旋ファイバーは共にタンパク質集合体形成プロセスに見られる核形成-伸長メカニズムによって形成されるが、全く異なる核形成を経由していることを突き止めました。自ら測定したデータが論文として形になっていく様はモチベーションに直結していました。
光刺激によって螺旋の巻方向が反転した集合体が形成されるのは珍しく、未だに偶然の産物と言えます。そこで、我々のスチルベン分子構造にフィードバックをかけることで、分子構造と集合プロセスの相関関係を導くことができれば、螺旋反転の一般性を構築できるかもしれないと考えています。また、本研究を通して、集合プロセスを詳細に調査することは、分子集合を理解するうえで非常に役に立つことを改めて実感しましたので、他の系にも適応していきたいと考えています。
独自の世界を展開し、それを理論的に深く追求できる研究者に憧れます。しっかりとした基礎を理解し、得られた現象にじっくり向き合えることは研究者の特権だと思っています。また、研究室の環境作りも重要だと考えています。一緒に研究する学生さんがやる気になってくれるようなテーマを考えたり、熱いディスカッションが出来るような環境作りを心がけたり、というのも研究を進めていくためには必要不可欠だと考えています。
清木 規矢 D2
(A02班 福島G)
総合理工学研究科・
物質電子化学専攻
Noriya Seiki, Yoshiaki Shoji, Takashi Kajitani, Fumitaka Ishiwari, Atsuko Kosaka, Takaaki Hikima, Masaki Takata, Takao Someya, Takanori Fukushima,
Science. 2015, 348, 1122,
DOI: 10.1126/science.aab1391
分子を二次元的に規則正しく並べることができれば、それがさらに一次元に積み重なることで高秩序な薄膜が実現できるのではないか、という一貫したコンセプトのもと実験を進めました。三脚型トリプチセンはシンプルな分子ですが、研究を開始した当初、このような置換パターンのトリプチセンは意外にもほとんど例がありませんでした。初期の検討で、このトリプチセンが期待どおり「二次元 + 一次元」の集合構造をとることがわかりました。そこからは、様々なセットアップを用いた薄膜のX線回折測定や、AFM観察、表面元素分析など、試せる限りの測定を行いました。三脚型トリプチセンも、側鎖を色々変えながら10種類を超える誘導体を試しました。様々な検討結果が、最終的に一本の筋を通すようにつながった時はとてもうれしかったです。
ひとつひとつの測定が苦労の連続でした。自分にとって印象深いものの一つは、「薄膜の中でトリプチセン分子が上下どちらを向いているか」という問題に取り組んだことです。これは、X線回折測定では議論できない問題で、最初はどのような測定をすればよいのかさえ分かりませんでした。ある時参加した高分子学会の企業ブースで、偶然、株式会社パスカルが装置を開発したTOFLASという手法を知りました。これは、中性化したHeビームを試料にあて、試料表面で散乱されたHeのTOFから表面元素の情報が得られるというものです。この測定を、側鎖にフッ素原子を導入したトリプチセンの薄膜で行うことで、トリプチセンの配向を明確に決定することができました。新しい分析手法にトライすることの大切さを学びました。
現在、トリプチセン薄膜の機能開拓に取り組んでいます。三脚型トリプチセンに様々な官能基を導入しても、規則性の高い「二次元 + 一次元」の集合構造が実現できることがわかってきています。また、この三脚型トリプチセンは、ポリイミドやPETなどのプラスチック基板上でも配向性が非常に高い薄膜を形成可能ですので、応用可能性は広いと考えています。
アイデアマンになりたいです。積極的かつアグレッシブに面白いアイデアを提案できる研究者が僕の理想像です。異なるバックグラウンドをもつ研究者の方にも興味を持ってもらえるような発想ができるように、自分を鍛えたいと思います。
横井 寛生 D1
(A01班 忍久保G)
生物工学専攻
Hiroki Yokoi, Yuya Hiraoka, Satoru Hiroto, Daisuke Sakamaki, Shu Seki, Hiroshi Shinokubo,
Nature Communications. 2015, 6, 8215,
DOI: doi.org/10.1038/ncomms9215
骨格内部にヘテロ原子をもつバッキーボウルの合成を達成した点です。ヘテロバッキーボウルはいくつか報告されていますが、骨格外周部にヘテロ原子をもつものに限られていました。今回合成したアザバッキーボウルは電子豊富であり、これまでのヘテロバッキーボウルにはない性質を示すことが分かりました。外周部が全て炭素原子であるため、ここから段階的に成長させることができれば、ヘテロフラーレンやヘテロカーボンナノチューブのボトムアップ合成を達成できる可能性があります。
はじめからこの合成ルートを狙っていたのですか?
当初は、窒素上にフェニル基をもつテトラベンゾカルバゾールを酸化的に縮環してアザバッキーボウルを合成しようと考えていました。しかし、目的物は全く得られませんでした。その後、「とりあえず一カ所だけでも縮環してみよう」ということで、一縮環体を合成しました。一縮環体のHOMOを計算したところ、縮環して欲しい位置に軌道係数が存在していることが分かりました。あまり期待せずに臭素化を行ったのですが、望んでいた位置に臭素がピタッと見事に入った時は本当に嬉しかったです。最後に、この臭素化体を分子内カップリングすることで、アザバッキーボウルが合成できたという感じです。
狙っていたそうですが、意識されていましたか?
誰かは狙っているだろうと漠然と考えていましたが、物性もしっかりやりたいと考え、合成できた後もC60との会合などを調べていました。論文を投稿した後に、野崎先生・伊藤先生らのグループが、同じ骨格をもつアザバッキーボウルの合成を発表されました。この報告を見た時にはさすがにショックでした。しかし、ヘテロバッキーボウルに関する研究を活性化するものと今では前向きに考えています。他にも狙っていた研究者はいたのではないかと思います。
今回のアザバッキーボウルは、偶然が重なってできた化合物です。「一縮環体を合成してみよう」とか「臭素化してみよう」とか、そういった考えが浮かばなかったら、合成できなかったと思います。そんな経験から、失敗を無駄にはせず、ふと思いついたアイディアを大切にして目的の実現につなげていける、そんな化学者になりたいです。また、幅広い分野の研究に触れることも大切にし、自分の研究結果をより広い視点で捉えることのできる研究者を目指していきたいと考えています。
山本 浩司 PD
(A01班 東林G)
Palash Pandit,‡ Koji Yamamoto,‡ (‡: equally contributed) Toshikazu Nakamura, Katsuyuki Nishimura, Yuki Kurashige, Takeshi Yanai,
Go Nakamura, Shigeyuki Masaoka, Ko Furukawa, Yumi Yakiyama, Masaki Kawano, Shuhei Higashibayashi
Chem. Sci. 2015, 6, 4160-4173, DOI: 10.1039/c5sc00946d
今回のご研究はどんな所が新しいのですか?
酸と塩基の刺激に応答して,可逆的電子移動不均化反応が起こる点です.私たちが発見したヒドラジノヘリセンの系は,トリフルオロ酢酸という弱酸で電子移動反応が定量的に進行するという特徴があります.特にビアクリジンでは,酸添加と中和により,1サイクルの反応が99%とほぼ定量的に進行します.また反応前後で電子移動に伴うラジカル発生や色調・蛍光変化も伴うため,刺激応答性化合物としても魅力的です.有機分子によるこのような反応は極めて稀であり,これまでにテトラチアフルバレンまたはTEMPOの系が報告されていますが,反応の変換効率が低い,または硫酸のような強酸を必要としていました.
ここに至るまでやはり苦労されたのでしょうか?
最初は何が起こっているのか,まったく見当がつきませんでした.溶液中NMRシグナルが見えないことからラジカルが出ていることは容易に予想できたのですが,それからが大変でした.今回の結論に至るまでに,本当に様々な実験を行い結論も二転三転しました.様々な方々と共同研究を行い,物性計測,反応解析,理論化学計算などの多岐に渡る研究手法を用いて反応の全貌を解明することができました.
らせん型π電子系を持つヘリセンの物性と機能の開拓を目的とした研究は盛んに行われています.今回の研究成果はヒドラジノヘリセン骨格が酸応答を持つことを示したものです.これは刺激応答性ヘリセンの一般的骨格になると考えています.今後は,ヒドラジノヘリセン骨格を元に,光または熱応答を示す分子を合成して様々な刺激応答性を持つ化合物を得ることを計画しています.それをもとに,N-N結合開裂,電子移動不均化反応およびラジカル生成といった特徴を利用した機能発現に展開したいと考えています.
直感と信念を大事にしていきたいです.過去の偉大な研究者たちの発見は,彼らが直感的に感じた事柄がきっかけになったことが多いです.また自分が重要と感じたことをやり続ける信念も持ち合わせていました.この2点が重要だと思っています.
野澤 遼 M2
(A01班 忍久保G)
生物工学専攻
Ryo Nozawa, Keitaro Yamamoto, Ji-Young Shin, Satoru Hiroto, Hiroshi Shinokubo,
Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 8454-8457,
DOI: 10.1002/anie.201502666
反芳香族化合物特有の新反応を発見したという点です。この反応を用いることによって、反芳香族性を示すノルコロールのC-H結合を位置選択的に直接官能基化することができました。これまで、芳香族性を示すポルフィリノイドの官能基化は古くから達成されていますが、その多くが求電子置換反応や遷移金属触媒反応を利用しています。しかし、今回発見した反応では求核剤により見かけ上、水素原子を直接置換できます。そのため、この研究は反芳香族化合物の新たな可能性を広げることができる反応だと思っています。
最初は目的化合物がほとんど得られずに苦労しました。特に、チオフェノールが4つ導入された化合物の合成は苦労しました。TLCをチェックした時、多数のスポットの中から、痕跡量の鮮やかなピンク色の化合物を見つけました。このきれいな色の化合物は何だろうという好奇心から化合物を単離同定し、収率を上げるために数多くの反応条件の検討を行いました。その結果、収率を向上させることができました。この反応条件を発見した時のカラムは、欲しかったきれいな色の化合物が多く生成していたため、ニコニコしながら生成物を目で追っていました。
実際、中国にもノルコロールを研究している人がいるようです。反芳香族化合物は魅力的な性質を多く有していますが、その性質はこれまでほとんど明らかにされていません。今回の研究によってノルコロールを官能基化することができましたので、この反応を足がかりとして、解明されていない反芳香族化合物の性質を明らかにできるような新たな反芳香族分子の合成を目指したいと思っています。
誰よりも化学を楽しみ、化合物を愛でることができる研究者を目指したいです。それと同時に、ただ自分が楽しむだけでなく、新たな可能性や感動を届けられるような研究者にも憧れを抱きます。そのためにはまず、目標に対する強いこだわりを持ち、最後まであきらめない姿勢を大切にしたいと思います。また、豊かな発想力を養いたいと考えています。
伊藤 覚 D2
(A01班 忍久保G)
生物工学専攻
Satoru Ito, Satoru Hiroto, Sangsu Lee, Minjung Son, Ichiro Hisaki, Takuya Yoshida, Dongho Kim, Nagao Kobayashi, and Hiroshi Shinokubo
J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 142-145, DOI: 10.1021/ja511905f
まず、立体的に混みあったポルフィリンでも効率良く連結できる酸化反応を発見したという点です。これまでは反応部位が混み合っていると反応の効率が極度に低下するものがほとんどでした。二つ目に、この新反応を用いて報告されている中で最大となる300°のねじれをもつπ共役分子の合成に成功した点です。これまでにもアセンをベースにしたツイスタセンと呼ばれるねじれたπ共役化合物が合成されていました。しかし、アセンの不安定性のためさらにねじった分子の合成は困難でした。それに対して今回の研究では、アミノ化と酸化を繰り返すと原理的にはどんどん分子を伸ばしてねじっていけるのが斬新ですね。
かさ高い分子同士をくっつけようとしたので、最初は反応効率が低いことに苦労しました。しかし、数%であっても目的物が得られたので反応の潜在能力を信じて反応条件を数多く検討しました。その苦労の甲斐あって、定量的にねじれた2量体が得られるまでになりました。この反応条件を見つけたときはあまり期待せずに反応進行具合をTLCでチェックしたのですが、目的物のスポットだけが大きく上がってきた時は興奮しましたね。TLCを持って研究室中に報告して回ってしまいました。 また、4量体の結晶を出すのにも苦労しました。ただ幸運にもSpring8で測定して頂けて、結晶構造を見ることができました。ねじれた構造が見えたときは非常に嬉しくて1日中飽きもせず結晶構造を見ていました。
ねじれたπ共役化合物の研究はこれまで合成や構造解析がメインで進められてきました。今回の研究によって機能性π共役分子をねじる手法が確立できたので、ねじれたπ共役化合物の機能化への一歩が踏み出せたと考えています。今後はこの分子をさらに伸張してねじれたπ共役多量体の合成を目指します。また、ポルフィリンの金属配位を利用してねじれの方向を制御し、機能性の創出を目的に研究を展開していきたいです。
第一に科学を楽しめる研究者になりたいです。また、アクティビティーが高く、柔軟な発想、応答ができる研究者になりたいです。そのためにはまずしっかりした自分の研究の軸を築いて、そのうえで新しいことを積極的かつ柔軟に取り入れて研究できるように努力していきたいです。
吉井 祐弥 D2
(A02班 芥川G)
応用化学専攻
東北大学多元物質科学研究所
ハイブリッド材料創製部門
Yuya Yoshii, Norihisa Hoshino, Takashi Takeda, Hiroki Moritomo, Jun Kawamata, Takayoshi Nakamura, and Tomoyuki Akutagawa
Chem. Eur. J. 2014, 20, 16279-16285, DOI: 10.1002/chem.201404043
これまでのらせんナノファイバー創製に関わる研究では、結晶性の低下を目的としたアルキル鎖、らせん性を誘起するための不斉炭素、分子間で物理架橋を可能とする水素結合性ユニットの3つの要素が重要と考えられてきました。しかしながら、今回、私が見つけたらせんナノファイバーは、プロトンドナーとアクセプター分子からなる単純なイオン性の有機塩であり、アルキル鎖を持たない剛直な分子から成長します。カチオンとアニオンのサイズ比をうまく調整する事で、分子配列の規則性にゆがみを設計した点に研究の新規性があると考えています。
見えたとき、どの様に感じましたか?
ハロアニリン誘導体と酒石酸というシンプルな骨格からなる単純有機塩を用いました。これは、らせんナノファイバーの様な高次の分子集合体の形成に必要な分子間力の本質は何であるかを探索するためです。また、単純な分子が複雑な分子集合体構造に成長する現象は、分子~生命への進化を考える上でも重要と思ったことも理由の一つです。 新たな観点から、らせんナノファイバーの創製を目標に研究を行いましたが、実現できるか自信がなかったので、研究が狙い通りに行ったときは、正直ほっとしました。SEMで最初にナノ構造が見えたときは、うれしくて先生を呼びに行ったくらいです。
これまでの研究は、クラウンエーテルに代表されるように1:1の分子あるいはイオン認識による機能開拓が進められてきましたが、近年は生体内における酵素-基質相互作用のように、より高次の集合体間の認識や相互作用に研究の方向性がシフトしていると思います。私も、キラリティやらせん構造に由来する高次の認識能や生体模倣に絡んだ機能性の創成を目的に研究を進めていきたいと考えています。
職人のように独自のスタイルやこだわりを大切にしつつ、研究成果を持続的に出し続けられる研究者に憧れを感じます。一方で、周囲の優れた発想や意見は素直に聞き入れながら研究を進められるよう心がけていきたいです。